名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)5号 判決 1966年3月20日
控訴人(第一審原告・反訴被告) 東亜石油株式会社
被控訴人(第一審被告) パイン産業株式会社
被控訴人(第一審被告・反訴原告) 株式会社 原商店
被控訴人(第一審被告) 豊田とも子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
<省略>
理由
当裁判所の判断によるも、控訴人の本訴請求は失当であってこれを棄却すべく、被控訴人株式会社原商店の反訴請求は理由がありこれを認容すべきものと考える。その理由は、左記に付加補正するほか、原判決理由記載(ただし(二)の債権未確定中の代位弁済の効力についてという欄の記載を除く)と同一であるからここにこれを引用する。
一、根抵当権の被担保債権が最終的に確定する時期は、根抵当権の存続期間の満了ないし決算期の到来もしくは基本契約の終了の時のほかその基本たる債権債務関係を清算するに至った時と解するのが相当である。
本件についてこれをみるに、原判決説示のごとく、本件被担保債権は、基本契約たる石油類売買契約上の債権債務関係の清算により、おそくとも昭和三八年八月二七日当時において確定債権となったのであって、ここに本件根抵当権は終期が到来したものといわねばならない。
二、しかして、被控訴人株式会社原商店が、弁済をなすにつき正当な利益を有する者であることおよび昭和三八年九月二三日同被控訴人が極度額一五〇万円の抵当債権元本とこれに対する満期になった最後の二年分の損害金八七万六、〇〇〇円(日歩八銭の割合による)合計二三七万六、〇〇〇円の弁済供託をなすにいたったことならびにその経緯も原判決認定のとおりである。
ところで根抵当によって担保される債権は、その清算期に債権が極度額以上に現存していても、担保物から優先弁済を受けうるのは根抵当契約に定められた極度額を限度とすること多言を要しない。したがって代位弁済をなす者は右極度額を限度としてその債権額元本のほか民法第三七四条により満期となった最後の二年分の利息、損害金を支払えば足ることとされている。もっとも、代位弁済者が、債務者以外の根抵当権設定者からその担保物を譲受けた者である場合には、右の第三取得者は、右極度額を限度とするも、被担保債権全部の負担を伴うものとして不動産を取得するものであるから、根抵当権を消滅せしめるに足る弁済であるためには、右極度額を限度とする債権元本額のほか、最後の二年分以上の利息、損害金が存在する場合には、民法第三七四条の制限に関係なくこれをも完済しなければならないし、また、これをもって足るものと解すべきである。以上の解釈は、根抵当権制度の本質と民法第三七四条が後順位抵当権者らが多額の延滞利息等の存在することによって不測の損失を蒙ることを防ごうとする規定であることからくる当然の結論である。
(控訴人は、根抵当不動産の第三取得者は、根抵当権設定者の地位を承継するものであるから、極度額を超える残存債権が存在する場合にはこの全額を弁済しないかぎり、根抵当権を消滅せしめない旨主張しているが、右の理論は、(イ)「債務者自身が根抵当権を設定した不動産を譲受けた第三取得者」には、債務者の地位を承継するものであるから、そのままこれをあてはめうるが、(ロ)「債務者以外の根抵当権設定者から担保物を譲受けた第三取得者」については、単なる物上保証人の地位を承継するにすぎないから、右の理論をあてはめることはもちろんできず、前記のごとく解釈すべきこと当然である。控訴人の挙示する各判例はいずれも本件に適切でない)。
これを本件についてみるに、成立に争いのない甲第三号証の一ないし三によれば、被控訴人株式会社原商店は本件土地に対して昭和三五年二月一九日極度額五〇〇万円の根抵当権を、昭和三七年五月二九日同じく極度額二五〇万円の根抵当権を各設定登記し、控訴人の本件根抵当権に対しいわゆる後順位根抵当権者であったが、昭和三七年一一月一九日売買による本件土地の所有権取得により混同を原因として前記後順位抵当権が消滅に帰したものであることが認められるから、同被控訴人は根抵当権者たる控訴人に対し後順位抵当権者の地位を主張することはできず、単に抵当権設定者が債務者以外の第三者である場合の目的不動産の第三取得者の地位にあるものというべきである。
三、してみると、被控訴人株式会社原商店は前記のごとく弁済した被担保債権の全額である一五〇万円と満期となった最後の二年分の損害金のほかにそれ以上の利息、損害金が存在する場合にはこれをも完済しなければ有効な代位弁済をなしえないことになるが、控訴人において右二年分以上の利息、損害金の存在することについてはこれを主張立証しないものであるから、同控訴人の代位弁済により、控訴人の有していた本件被担保債権、およびこれを担保するための根抵当権、その他の担保権――原判示のごとき内容の代物弁済の予約に基づく権利、成立に争いのない甲第二号証、甲第三号証の一ないし三により認められる債権担保のための本件土地についての賃借権を含むと解する――は一切同被控訴人に移転し、一方、被担保債権の満足をえた控訴人はこれらの権利を失うにいたったものと解するのが相当である。
しかして、控訴人が代物弁済予約完結の意思表示をなしたのは、右以後である昭和三八年一一月一五日であることは原判決認定のとおりである。
四、従って、控訴人が本件土地につき所有権を取得するいわれはなく、本件土地につき控訴人が所有権を有することを前提とする本訴請求はすべて理由がないこと明らかであるから、失当としてこれを棄却すべきである。
五、次に、被控訴人株式会社原商店の反訴請求について判断する。原判決主文掲記のごとき根抵当権、賃借権の各設定登記、代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記が存在することは当事者間に争いがない。しかるに控訴人はこれらの根抵当権、賃借権、代物弁済予約による所有権移転請求権をすべて失い、これらの権利は同被控訴人に移転していることは前段認定のとおりである。してみると、この場合、同被控訴人は法定代位の効果を主張し、これらの移転登記を求めることもできるが、代位者に移転した権利は代位者自らこれを抛棄しうるこというまでもないところであるから、あえてこれを求めず、本件土地の所有者である同被控訴人が所有権の効力としてこれらの権利を失った控訴人に対し、実体関係と符合しなくなったこれら各登記の抹消登記手続を求めることが許されることは極めて当然の事理といわねばならない。
よって、被控訴人株式会社原商店の反訴請求はすべて理由がある。<省略>
<以下省略>